戦略はストーリーである

楠木(2010)は、優れた戦略は、流れと動きを持ったストーリーであるという。優れた戦略は、その戦略を構成するさまざまな打ち手がストーリーとして自然につながり、全体としてゴールに向かって動いて行くイメージが動画のように見えてくる。全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくるという。


戦略は競合他社との違いをつくることであるが、「こういうことをやると、こうなっていって、そうすると、こんな動きが出てくるから、こんなことができるようになる」という形で、前へ前へと流れるように話が進む、打ち手のダイナミックな時間的展開こそがストーリーだという。


戦略は、個別の打ち手ではなく、その結果として現われるストーリー全体の「面白さ」で勝負するのだともいう。一つ一つは小さい話かもしれないが、数多くの因果論理が着実に積み重なってストーリーの一貫性が出来上がってくる。そして、他社との違いを作り出して優れた収益を持続させるというゴールに向かって、戦略の構成要素がお互いに絡み合い、シナジーを生みだしていく。なぜ打ち手が縦横につながるのかという論理も大切なのである。


持続的な競争優位を生み出すためには、あえて非合理な要素をストーリーに組み込むことによって、他社からの模倣を忌避することがポイントであると楠木は指摘する。その要素自体は一見すると不合理なのだが、それが他の要素と相互作用を起こすことによって、ストーリー全体の文脈では強力な合理性を持つ。このことが他社に真似されない絶妙かつ優れた戦略の核となりうるのである。