複数の理論的視座を融合して理論構築を行う方法

ある特定の研究対象を十分に理解できる理論が存在しないとき、新たに理論構築を行うことになる。その際に、異なる複数の理論的視座を融合させることによって新しい理論を構築していくことは有用である。


Okhuysen & Bonardi (2010)は、2つの異なる理論的視座を融合することを例として、そういった理論構築の利点と課題について整理している。彼らは、2つの理論的視座の関係は、(1)2つの理論的視座の互換性(類似した現象に焦点を当てている、使用する概念が類似している)、(2)2つの理論的視座がよりどころとする前提条件の互換性、である。この2次元によって、理論的視座の組み合わせ方は4パターンに整理される。


まず、理論的視座の互換性も前提条件の類似性も高い場合、研究対象をより深く理解することに貢献できる。しかしそのためには、理論構築において新規性と深さを出していかねばならない。2つの理論を組み合わせることによってモデルの変数が増えるだけだとか、交互作用仮説が導き出されるとかでは、理論的貢献は望めない。したがって「なぜ2つの理論的視座を組み合わせることが重要なのか」「それぞれ片方のみでは得られないが、組み合わせることによってはじめて得られる洞察なり理解というのはなにか」を明確にしていかねばならない。研究対象となる現象をより拡大、拡張していくような方法が1つのやり方である。


次に、研究対象や扱う現象の類似性は低いが、前提条件に互換性がある場合には、なぜその組み合わせが重要なのかを説明する必要がある。これまでに組み合わされたことがないから今回組み合わせてみるといった説明では到底不十分である。共通する前提条件を掘り下げてみることによって境界条件や理論の限界を特定したり、前提条件を緩めたりすることも有用であろう。


研究対象や現象は類似しているが、前提条件に互換性がない場合、理論構築をした場合の一貫性や整合性に難点が出てくる可能性がある。2つの理論的視座の前提条件が異なるため、これらの理論的視座を平等に、対等に扱っていては、理論の整合性が失われる。必ず、どちらの理論的視座に近いところから議論しているかなど、著者自身のスタンスを明確にしておくべきであろう。


最後に、研究対象の互換性も、前提条件の互換性も低い場合、既存の理論が存在しないような対象の研究を開拓していくうえで有用である。その場合、なぜ、当該現象を理解していくのに、2つの離れた理論的視座を融合することが重要なのかを説明しなければならない。これは現象面での議論に加え、ものの見方、考え方といった認識論的な議論も含まれる。


これらの課題を克服することによって、複数の理論的視座を融合することができるならば、新たな知識、新たな理論の創造に大いに貢献できるであろう。

文献

Okhuysen, G, & J-P, Bonardi 2010. From the editors: The challenges of theory building through the combination of lenses. Academy of Management Review.