3Eフレームワークで理論の完成度を採点する

経営学では、次々と新しい理論が登場する。ただ、重要なのは、それらの新しい理論が本当に優れているかどうかを瞬時に判断するのは難しいということである。とりわけ、多くの理論が、Academy of Management Reviewなどのトップジャーナルから生まれているため、ジャーナルの権威の影響を受け、盲目的に優れた理論だと思い込んでしまうかもしれない。これに対し、Arend, Sarooghi, & Burkemper (2015)は、公平で、客観的で、あらゆる経営学理論に適用可能な評価の枠組みを、3Eフレームワークという形で集約した。3Eフレームワークを用いれば、それぞれの項目ごとに理論の良し悪しを採点することが可能であり、その結果に基づき、どうすればその理論の完成度を高めることができるかについての指針を得ることができるのだ。

 

3Eフレームワークは、3つのE (Experience: 経験、Explanation: 説明、Establish: 確立)の要素で成り立っており、それぞれのEが複数の評価要素から成り立っている。これは、研究者によってどのように理論が構築され、確立されていくかというプロセスも反映している。まず「Experience(経験)」については、研究者がどのような経験を得て理論構築を行ったかの適切性を判断するもので、「既存の文献を参照し、それらに基づいて構築されているか」と「理論の対象に対する妥当な観察に基づいて構築されているか」という2 つの評価基準がある。理論は、何らかの現象を説明するために構築されるものであるから、その現象についての既存の知識や注意深い観察という研究者の「Experience(経験)」は、良い理論の構築には欠かせない要素である。

 

もし、特定の理論が対象とする現象について十分な先行文献の理解ができていなければ、その理論が先行研究から生まれた理論と比べてどこが新しいのか、そもそも新規性があるのかさえ分からない。理論が優れているか有用かどうかというのも、その比較となる別の理論との比較がないと判断できない。以前の理論や対立する理論との共通点、類似点、相違点を明らかにすることで初めてその理論の新規性や有用性が判断できる。よって、十分な先行文献に基づかないで構築された理論は、優れた理論の基準を満たしていない。また、対象の注意深い観察から構築された理論であるならば、その観察の信頼性が問題となる。偏った観察や非常に狭い場面の観察から構築された理論が偏っていたり応用範囲がほとんどないことは明らかである。

 

次に、「Explanation: 説明」は、理論の核心部分であって、例えば、現象を記述したり抽象化、モデル化するだけでなぜそうなるのかを説明できないものは理論とは言えない。まず、理論を構成するユニット(単位)が十分に幅広いものかどうかを判断する必要がある。とても幅の狭い範囲しかカバーしない理論は、実践への応用が不可能である。なぜならば、現実の実践はその理論でカバーしない多くの別の要素も含んだ全体のプロセスなしには成り立たないからである。実践の全体プロセスのごく一部だけを扱った理論だと役に立たないということである。実践でも適用可能な広さを持ったユニットで構成された理論が望ましい。また、ユニット間の関係が因果関係などで説明できないものは理論とは言えない。例えば、ただXが強まるとYも強まると記述することは、なぜそうなるのかの説明が欠けているため、Xが強まるとYは弱まるのではないかという疑問が湧いても、それへの論理的な反論ができない。よってそれは理論とは言えない。

 

さらに、その理論の境界が明らかになっていることが必要である。例えば、XというユニットがYというユニットに影響を与えることを示すモデルならば、Xはどこからどこまでの範囲で動くのか、Yもどこからどこまでの範囲で動くのかが分からないといけない。それが分からないということは、Xを操作することでYが非現実的なレベルまで増大する事も想定される。非現実的な予測がなされる理論は現実に適応できない。また、ユニットの集合体として表現される理論そのものに、どのような状態があるのかも明らかでないといけない。言い換えるならば、その理論が想定するパターンというのはどんなものがどれくらいあるのかということである。特定の状態やパターンが定まっていない、どんなパターンもありうるということは、その理論を使うとどんな状況も考えられるということなので非現実的である。

 

さらに、理論から導き出される命題の適切性を判断する必要がある。命題には3つの種類がある。1つ目は、特定のユニットの値の範囲とそれに伴う別のユニットの状態に関する命題で、平たく言えば、XとYがどう関係しているかを述べるものである。2つ目は、特定のパターンが持続するための複数のユニットの条件に関する命題で、ある特定の状態(パターン)が成り立つ条件を述べるものである。3つ目は、ある特定の状態から、別の状態に移行するための条件を述べるものである。また、理論に背後にあるいくつかの前提が適切かどうかの判断も重要である。理論の背後にある前提が正しければ、理論が説明する内容も正しいわけだから、理論の背後にある前提が間違っていれば、その理論の内容も間違っていることになり、実践に使うことができない。理論を構成する論理も注意深く吟味しないといけない。例えば、その論理は、因果関係の論理なのか、トートロジーに陥った論理になっていないか、論理全体のストーリーに一貫性があるか、といった評価である。

 

理論を評価する最後のEである「Establish: 確立」では、そもそもその理論は実証できるのかという点を評価しなければならない。あるいは反証可能性があるかという点が大切である。例えば、理論を構成するユニットが測定不可能だったりして検証も反証もできなければ、その理論と私たちが経験する現実との関係を調べることができないわけだから、理論そのものの妥当性が成り立たないので、理論を確立することが不可能である。また、その理論は、実務家にもわかりやすく、実務家から価値のあるものとして認められているかという点が重要である。実務家に認められない理論というのは、実践に使えない理論ということであるので、経営学の理論としては失格である。

 

Arendらは、この3Eフレームワークを用いて、アントレプレナーシップ分野で注目されている「エフェクチュエーション理論」を採点し、ポテンシャルはあるがまだまだ未熟な理論だという厳しい評価と将来研究への注文を下している。

文献

Arend, R. J., Sarooghi, H., & Burkemper, A. (2015). Effectuation as ineffectual? Applying the 3E theory-assessment framework to a proposed new theory of entrepreneurship. Academy of Management Review, 40(4), 630-651.