方法論

実践家が経験によって保持しているコツのようなものを実証研究の対象とするさい、データ収集の方法が問題となる。仮説検証ではなく、あくまでそのコツの中身の理解であるから、ランダムサンプルのような統計的サンプリングはなじまない。むしろ、仮説や理論を構築していくさいに重要であると思われるサンプルを意図的に選別してデータ収集をしていくという、理論的サンプリングが適している。
仮説や理論は、データ収集と切り離すことはできず、同時並行的に浮かび上がってくる類のものであるため、理論的サンプリングにしても、そのつどそのつど、新たな発見や仮説の再構築、修正などに応じて、次にどのようなサンプルが必要なのか、適しているのかの判断の繰り返しとなる。
実践家のコツを探るのであれば、適したサンプルとして、内省的実践家があげられる。彼らは、単に身体知的に身に着けたコツを使用しているのみではなく、過去を振り返りながら内省することによって、自分なりにそのコツを頭で理解したり、言語化することによって他者に伝えやすい形式に変換したりする。そういった言語化されたものを収集するのに適しているのが、内省的実践家が書いた自著である。ある程度、思索を繰り返しながら書き下ろしたものが多いため、文中には、研究する立場から知りたいコツの中身が言語化されたかたちで記載されている場合が多い。もちろん、学術的に洗練されたものではなく、あくまで本人の言葉で語ったものである。そこで、研究の立場として、それをできるだけ学術的(簡潔かつ本質をおさえたかたちで記述)する作業を行いつつ、そういった言葉の類を収集していくことは重要なことである。