組織志向型の雇用慣行と市場志向型の雇用慣行

戦略的人的資源管理論(SHRM)では、アメリカをはじめとする世界各地の雇用慣行が、株主志向、人材の流動化、雇用の外部化などを特徴とするマーケット志向型に傾きつつあるのに対し、安定雇用や教育投資などを重視する組織志向型の雇用慣行(HPWS)の優位性が説かれてきた。HPWS型の雇用慣行は、持続的競争優位性をもたらす企業特殊的人的資本の拡充に資するというロジックである。


しかし、わが国の場合はどうか、わが国では、従来から、組織志向型の雇用慣行を取り入れてきた。株主志向ではなく、ステークホルダー志向の企業統治体制のもと、長期安定雇用、厚い教育投資、従業員参加型の経営などを行ってきた。それに対し、近年の景気不振や、グローバルスタンダードの普及によって、株主志向、短期利益の重視が声高に叫ばれるようになり、その圧力もあって、多くの企業がいわゆる成果主義を志向するようになった。つまり、組織志向型の雇用慣行が多数を占める環境において、アメリカ的なマーケット志向型の人的資源管理を取り入れようとする動きが出てきた。


短期的に企業業績を回復させることは、どの企業においても喫緊の問題であったがために、成果主義を中心とするマーケット志向型の雇用慣行が普及したことは自然なことであるかもしれないが、マーケット志向型雇用慣行が短期的な業績回復に寄与することは予想できるにせよ、長期的な視点からみた企業の持続的競争優位性にもたらす影響については、未知な部分が多かったのである。