歴史的に見ると、日本の大手企業の雇用慣行は、成長する事業・拡大する組織を維持するために作られたものであったと考えられる。つまり、日本的人事賞嘆論のように、日本的雇用が日本企業の競争力を高めた、というよりは、戦後から高度成長期にかけ、事業や組織の急激な成長という環境要因が先にあり、それになんとかついて行くために必要な雇用形態が作られていったと考えるべきではなかろうか。
にわとりが先か、たまごが先かの議論に陥るかもしれないが、外部要因による経済成長、事業成長、組織成長とフィットした雇用慣行が形成されたために、その雇用がさらなる事業成長・組織の成長を後押ししてきたと考えられる。それは、トップマネジメントの巧みな戦略眼のようなものというよりは、高品質なものを安定的に作ることができる愚直な現場力のようなものであり、それに関してはポジティブフィードバックループが働いたことになる。
愚直な現場力を維持しながら拡大・成長し続ける組織に必要なのは、労働力の安定供給と定着であったために、新卒一括採用・内部労働市場型の雇用慣行が形成されてきた。しかし、拡大・成長が止まり、利益率の重視や戦略の重要性など、組織が生存しつづけていくための条件が変わってきたために、組織と雇用慣行の間のミスフィットが顕在化してきたのであろう。