モティベーション・プロセスにおける感情経験の直接・間接効果

人間のモティベーションを要素に分解するとするならば、(1)方向性(何を選択するのか、何を行うのか)、(2)強度(どれほどの努力を注ぎ込むのか)、(3)持続性(どれだけ維持するか)に分けることができるでしょう。


このようなモティベーションの特徴に大きく影響するのが、人間の認知的側面です。人間は、目標を設定し、その目標の達成のために自分を律するという認知的プロセスを、自己規律(self regulation)と呼び、モティベーション理論の根幹をなす理論的フレームワークです。ここでは、努力をした場合に結果がよくなる期待(主観的確率)の高さが、目標設定の高さに影響し、モティベーションの強度に影響すると考えます。また、期待の高さは直接的に、行動の選択や志向性(生成的[generative]か、防衛的[defensive]かに影響を与えると考えます。努力の結果得られる便益についての知覚は、目標へのコミットメントを高め、モティベーションの強度に影響を与えると考えます。また、便益の知覚は、直接的に行動の選択や志向性に影響を与えると考えます。そして、進捗状況の判断が、モティベーションの持続性に影響を与えると考えます。進捗状況が順調であれば、モティベーションを維持しつづけるということです。


Seoらは、この認知的なモティベーション理論に、感情経験の理論を統合させたフレームワークを提示しています。つまり、人々の感情経験は、モティベーションの認知的プロセスに影響を与えることによって、間接的にモティベーションに影響を与えると同時に、そのような認知プロセスを介さず、直接的にもモティベーションに影響を与えるというものです。


まず、なんらかの原因によって引き起こされる感情経験を、ざっくりと「快」か「不快」かに分類してみます。感情が「快」の状態にあるとき、物事の期待やその結果がもたらす便益を楽観的に見積もることにつながります。よって、新たな可能性を探るような生成的なモティベーションにつながると予想されます。同様に、楽観的な見積もりから、高い目標を設定しそれにコミットしがちなので、努力水準も高くなると考えられます。つまり、モティベーションの強度が高まるということです。さらに、快な状態にあるときは、あまり頻繁に進捗をチェックせず、しかも、進捗をチェックするときも楽観的に、進展しているように感じるので、モティベーションの持続性も高まります。一方、感情が「不快」な状態にあるときは、期待や便益を悲観的に見積もるようになるので、守りに入るような防衛的なモティベーションにつながると予想されます。


さらに、感情経験は直接的にモティベーションに影響を及ぼすと予想されます。感情経験が「快」であれば、前向き、生成的なモティベーションになりやすいと考えられます。また、快・不快を問わず、感情経験が強く活性化されているほど、モティベーションの強度が高まると予想されます。最後に、感情経験が「快」である場合に、モティベーションの持続性が高まると予想されるのです。

文献

Seo, M..G., Barrett, L. F., & Bartunek, J.M. (2004). The role of affective experience in work motivation. Academy of Management Review, 29, 423–439.