冒険物語に学ぶ論文作成

野口(2002)は、世の中にある有名な冒険物語には驚くほど共通したストーリーで成り立っていることを紹介している。学術論文についても、そのストーリー要素を活用することで、魅力的な論文になりうる。

野口によると、冒険物語に共通するストーリーの流れは以下のとおりである。

  1. 故郷を離れて旅に出る
  2. 仲間が加わる
  3. 敵が現れる
  4. 敵との間で最終闘争が行われる
  5. 故郷へ帰還する

学術論文に照らし合わせれば、まず現実の問題、実用的な話題から入り、読者の関心をこちらがわに引き寄せる。そこから、現実を離れ、抽象的・厳密な議論の世界への旅に出て行く。途中、提唱する理論や意見を補強する仲間が加わっていく。そして、反対概念、反対意見が現れ、自分の意見と対立する考えとの最終闘争が起こる。どちらかが勝つか、両方がうまく交わる新しいアイデアが生まれるか、なんらかの結果が出る(クライマックス)。その結果をもって、現実の世界に帰還する。つまり、新しい、有益な知見をもって実用的な世界で活動する指針をえる、となる。


その他、野口(2002)による文章法で印象に残ったのは、文章全体をひとことでいえるメッセージが重要だということ。テーマが広すぎると内容が浅くなる。発展性があるのがよいし、切り口を工夫すれば魅力的なメッセージとなる。上級テクニックとしては「ないものを探す」。「見えるものから目立つものを探す」のは素人でもできるが、「あって然るべきものがない」を指摘するのは玄人的である。


大切な書き出しの工夫としては、最初に結論やクライマックスや結論を述べてしまう「脱兎文」や、「宙吊り」や「驚愕」の文章を最初に持ってくる「竜頭文」などもある。


比喩を用いて一撃で仕留めるテクニックも重要だ。「比喩」は、明白なことを持ち出して、「それと同じ論理構造になっている」とする説明法である。比喩を用いると、論理構造がわかるだけでなく、印象に残るのである。