会場を味方につける

「会場を味方につけましたね。」というのは、フィギュアスケート世界選手権TV中継での解説コメント(03/21/08)。会場を味方につけるというのは、観客を味方にするという意味だが、味方にするとはどういうことか。これは、本人だけでなく、観客も一緒になって、演技を最高なものに仕上げるということであると解釈できる。


では、観客がどのようなかたちで演技に貢献するのか。それは、観客の気持ちが、選手の演技に息を呑み、集中している状態、つまり、会場すべてが、本人の演技に集中しており、本人の演技をつくっている状態なのである。


そうでない状態というのは、どこかで観客の集中力が途切れていたりして、演技に集中されていない。競技を見ている人もいれば、見ながらなんとなく他のことを考えている人もいる。次に出てくる選手のことを考えている人もいる。というように、会場全体に統一感がない。だから、観客と演技中の選手は、別の世界にいる。選手自身も、そういった状態であるから、完璧に演技に集中することができない。どこかで雑念めいたものや力みが生じたりするので、失敗もしやすくなる。失敗して観客の心がますます現在の演技から離れていくと、選手も気持ちが上の空になってしまったり滑っている途中で諦めの境地に達してしまったりすることもある。しかし、会場が味方になっているとうのは、観客も、選手も、すべてが一体化している。余計なことを考えず、選手も含め、全員が、いま進行している演技に集中しているのである。


そのような状態では、選手も観客も(審査員も)、全員が、いままさに進行している演技の流れの中におり、その演技の流れを見守っており、さらにいうならば「演技の流れをつくっている」。滑っている本人は、流れに身をまかせ、あたかも自然が身体がうごいていくように演技する。観客と一緒にみなで演技の流れをつくっているので、それに身を委ねるのである。これまで十分に練習をしてきたわけであるから、あとは自然に身体が動くのにまかせればよい。みなでつくりあげるからこそ、本人もその流れのなかで最高のポテンシャルを発揮し、すばらしい演技をする。そのようなプロセスをさして、会場を味方につけるというように表現するのであろう。