客観主義と経営学教育


認識論における客観主義とは、観察者とは独立にリアリティ(真実)が存在し、そのリアリティは、因果法則に従うという考え方である。客観主義は、ポストモダニズムとは異なる。ポストモダニズムは、リアリティは主観的であり社会的に構築されたものであるとみなすため、客観的な知識や価値を否定し、客観的に正しいというものはないとする。


客観主義に従うならば、客観的な原理(原則)が存在する。原理とは、汎用性の高い真実として捉えることができ、その他の真実が、それに準ずることになる。つまり、最も汎用性の高い原理をおさえれば、それを応用することで、別の真実を導き出すことができる。


実践に役立つ原理原則とは、ほどよい抽象度とほどよい範囲を兼ねるものである。あまりに抽象的すぎるのは、汎用的ではあっても実践に用いるには不十分である。あまりに具体的で狭い範囲のものは、特定の状況にしか使えない。よって、「中範囲」の原理が、実践的なものであるといえる。

客観主義によるケースメソッド

帰納的アプローチ

ケースそのものはユニークな一回きりの出来事なので、それ自体に意味はなく、そこから、経営学教育においては、学生が、ケースから実践に役立つ原理・原則を掴み取ることができるかが重要である。そのために必要なプロセスは「帰納法」である。複数のケースを読んだり、自分達の経験などを振り返ったりしながら、一貫して適用可能は原理・原則を見つけ出すのである。そうして見つけ出した原理・原則を、本人達が教育後の実践に応用していくのである。このような訓練によって、学生は、実践に生かせる原理・原則を学ぶことができるだけでなく、複雑に見える一回一回のケース、出来事から、共通する重要な原理・原則を見つけ出すという帰納的能力を養うこともできるのである。

演繹的アプローチ

最初に、抽象的で一般的な原理・原則を集中的に教え込む。この原理・原則は抽象的なため、論理的には理解できても、すぐに実践に使えるわけではない。そこで、ケースメソッドを取り入れ、ケースを、最初に学んだ原理・原則を用いて理解する。また本人達がこれまで経験した様々な出来事を、原理・原則を使って説明できるようにする。そうすることによって、抽象的な原理・原則が、具体的、個別的な出来事に応用できるようになる。つまり、どうしてこうなったのか、どのような原理がこのような出来事で働いていたのか。では、実践をうまく行なうにはどうすればよいのか、といった実践上の具体的な問題解決や行動指針に、原理・原則を応用することができるようになる。つまり、抽象的な原理・原則を、演繹的に具体性の高い現実に応用する能力を養うことができる。