ギデンズの構造化理論

構造化理論は、恒常的な社会関係が行為の意図せざる結果として安定的に再生産されることに焦点を置き、そのようなプロセスで社会システムが成立してしまう関係を主体のあり方を通じて深く捉えた理論である。


構造は、主体が選択した行為による意図せざる結果であり、行為者が意図しないままに生産・再生産する何かであると同時に、時には行為者によってその存在が意識されないままに行為者の行為選択を規定している。しかし、構造は意図されざる結果それ自身である前に、行為によって再帰的に構築される諸条件なのである。構造は、主体によって把握され、行為によって再帰的に生産されることで安定的に存続する規則であり、資源なのである。この考え方によって、人間を構造に縛られた操り人形としてではなく、構造を生産する主体として捉えることができた。


知的能力を有した主体は、自身を取り巻く環境を深く理解しており、そのうえで最善と思われる行為を選択する。主体はそのように自律的な存在であるがゆえに構造の存続に加担する「代理人」でもある。構造も主体も互いが互いを説明し、同時に説明されなければならない。互いが互いの存立のための条件になっている。構造化理論は、構造と主体の関係を媒介するものとして行為を概念化したのである。

引用文献

数土直紀「ギデンズの構造化理論」井上俊他(編)『現代社会学の理論と方法』岩波書店 1995年