自分が主役の物語・ドラマ

自分の物語を語ることは、自分とは何かを語ることである。


とりわけ、自分がキャリアの転換期にいるときは、自分がどのように歩んできて、いまどういった転換点にあり、どこに向かっていくのかを語ってみるのは自分自身を理解しなおすのに有効だ。
ドラマ仕立てに語ってみよう。ドラマには、転換、葛藤・緊張、不連続的な変化などが含まれている。現在の自分が、自分を主人公とするキャリア物語のターニングポイントにいるのであれば、いよいよこれからドラマチックな展開が待ち受けているというわけだ。どんな展開になっていくのか。それを語ってみよう。


もし、自分がキャリアの転換点で悩んだり苦しんだりし、またいろんなことが起こっているような状況なら、なおさらドラマにふさわしい展開だ。もう引き返せないところまで来てしまったのか。この先どうなるのか。読者・聞き手がもっともはらはらどきどきするところだ。


さて、あなたは自分が主人公のすばらしいドラマが描けそうか。すばらしいドラマが含んでいる要素は以下のとおりである。

  • 読者や聞き手が、あたかも自分のことにように関心をよせるような特徴を持ったり問題を抱えた人物が主人公である。
  • 主人公をとりまく環境が変化し、主人公がなにか行動を起こさなければならない重要な局面をむかえる。
  • 主人公の行く手には次から次へと試練が待ち受けている。主人公は悪戦苦闘しながらなんとか道を切り開こうとする。時には挫折しそうになり、時には一寸の明るい光が差す。そのような経験を積むなかで、主人公はどんどん変化していく。
  • 主人公は、もう戻れないところまで来てしまう。物語のターニングポイントを迎える。主人公は、前に進むしか道はなくなり、いちだんとはらはらどきどきした展開が待ち受けている。
  • さまざまな展開を経て主人公を待っているのは。ドラマチックなハッピーエンドか。悲劇的な出来事か。最後まで目が離せない。

聞き手が引き込まれるようなドラマは面白いドラマ、意味深いドラマ、中身の濃いドラマである。つまり、自分がそういったドラマの世界を生きることができるということは、中身の濃いキャリア、人生を歩んでいるといえるのである。中身の濃いキャリア、人生を歩むためには、聞き手が引きずりこまれるようなドラマをつくり、語ることが重要だ。そうしているうちに、いつしかそれは本当の自分の生きざま、人生になっていくからだ。


優れたドラマには、さまざまな展開がなされるものの、常に一貫したテーマが背後に流れている。何の脈絡もなくいろんなことが起こるだけの話が面白いはずがない。聞き手を混乱させるだけだ。キャリアについても同じことが言える。意味もなくただただ転職や異動を繰り返しているだけの話に面白みはないし、聞き手のみならず本人までもが混乱するだろう。一貫したテーマとは、自分に起こるいろいろな出来事はすべて意味のある因果関係の連鎖として、共通するテーマのもとである方向に向かってつながっていくのである。あなたのキャリア、人生のテーマは何だろうか。


わくわくするような魅力的なドラマを何本か書いてみよう。とくに将来はまだ起こっていないのだから、想像力を働かせて、聞き手を魅了するようなドラマを作ってみよう。そのうちのどれが本当の自分のキャリア、人生として実現していくのか楽しんで想像しながら取り組もう。良い書き手、作家、脚本家になるためには練習しかない。とにかく機会あるごとに、いろんな人々に対して自分のキャリアの物語を語り聞かせよう。

参考文献

Ibarra, H & Lineback, K (2005). What's your story? Harvard Business Review, January 2005, 65-80.