流れを自分のものにする方法

桜井(2008)は、サーフィンは、波の動き、潮の流れ、風の流れといったものをいかに巧みにとらえるかが勝負であるといい、魚や鳥はこうしたことを本能でやるという。気流や潮の流れを巧みに体でとらえ、一体となり、人間には想像もつかない距離を泳いだり飛んだりするというわけである。人々も、人間関係の流れ、仕事の流れ、生活の流れのように、普段さまざまな流れを読んだり、流れに乗ったりしているという。さまざまな流れの中に人は生きている。そこでは当然、いい流れを作り出したり、いい流れを見つけて乗ったりすることがとても重要なのだと桜井はいうのである。


勝負でも、人生と同様の流れが凝縮して表れる。その流れをいかにとらえるか、いかに読むかによって勝負の行方が左右されると桜井は指摘する。勝負の流れは川の流れと同じで小さな流れが集まってひとつの大きな流れを作っているというのである。そのため、大きな流れを全体でとらえるのと同時に、小さな流れにも気づくことが必要である。なぜなら、小さな流れでも次の瞬間には別の小さな流れと一緒になって大きな流れになるかもしれないからである。小さな流れには次の変化のサインが表れているのだと桜井はいう。つまり「先に大きな流れを見すえながら小さな流れを見逃さないことが、次の変化の流れにも乗っていけることになる」というわけである。


勝負の場合、初めは調子がよかったのに途中で急に自分のところに流れがこなくなる時がある。このように「かげり」がくるのはごく自然なことだと桜井はいう。風や潮などの自然の流れが一定方向だけに動かないように、勝負の流れも絶えず向きが変わったり、強弱が変わっているからである。絶好調のスポーツ選手でも、試合中にはちょっとした調子の波がある。つまり、調子のいい相手とぶつかった時は、この「かげり」の瞬間をとらえて攻めるとチャンスが出てくるのだと桜井は論じる。「かげり」は対応を間違えると大きなミスにつながる。動揺せず、しっかりと基本の動作と基本の心構えをなくさないようにすれば、調子の波は元に戻ってくると桜井は指摘する。


また桜井によれば、人間の体にヘソがあるように、勝負にもヘソがある。このヘソをとらえたほうが勝ちになるが、それにはバランス感覚が必要だという。バランス感覚を持つには、全体をとらえる「全体観」、相手との「相互感」、流れの変化をとらえていく「時の感覚」の3つが必要だという。全体観なく、視野が一部分にとらわれ過ぎると自己中心的になり全体が見えなくなる。また、相手の変化だけをとらえるのではダメで、相手と自分の関係は、相手と自分の両方の変化の上に成り立つという「相互感」の感覚が重要である。そして、流れを見極める「時の感覚」が重要である。慎重すぎても大胆すぎてもチャンスのタイミングを逃すので、余計な思考を入れず、素直に流れを感じていくことが大切なのだと桜井はいうのである。