マーケティングにおける場の生成と流れ

石井ほか(2009)によれば、市場は1つではないし、市場の秩序は一時的でしかない。市場には常に変化が内在しており、企業の持つ市場観の差異や交錯などによって、変化が生み出される。


市場は流動的で、創発する。創発とは、要素に還元されない事態が全体において現れる現象一般で、例えば、有機体の塊にすぎない人間に「心」が生じる(ようにみえる)ようなことである。市場は、消費者とか企業とかの要素の還元しきることのできない独自の性格を持っているという。


市場は、企業の行為とは独立した存在ではなく、企業間の競争や相互行為のプロセスを通じてその輪郭が現れ、拡大する存在である。つまり、市場とは、競争する企業の市場観がせめぎ合う中で、何かぼんやりと立ち現れる「場」であり、そのような事情の下に立ち現れてくる市場は、立ち現れと共に独自の秩序化の力を発揮し始めるのである。


市場は流動的なので、事前には見通せていなかった動きが顕在化してくる兆候をとらえて、その流れをうまく利用する起業の判断や対応が極めて重要である。特に新製品の導入プロセスでは、自社の固有の論理に沿った形で、市場の流れの変化をとらえることが必要となる。ただ、それは単なる追随ではなく、小さな流れをテコとして利用し、自社にとって有利な潮流を生み出そうとする戦略的行為である。その行為の連鎖が、他者の行為に影響を与え、さらなる市場の変化の源泉となっていくのである。