優れた論文を書くための修辞学的テクニック(1)

科学は客観的であるというイメージがあるが、知識の社会構成の視点からすると、科学的な知識や発見であっても、それ自体が初めから独立した価値があり、当該分野に貢献できるわけではなく、あくまでそれを取り囲む研究者が、その知識や発見が価値があると認識し、それが研究者たちの共通了解となってはじめて価値が生じ、当該分野の発展に貢献できると考えられる。


これは、社会科学、そして経営学の論文を書く場合にも重要な示唆を与える。つまり、研究によって得られた成果は、それ自体に価値があるのではなく、ましてや自動的に当該分野に貢献できるわけではない。優れた論文に仕上げ、それが認められて初めて価値が見出され、分野に貢献できる。それには、論文において優れた導入部分(Introduction)を書くテクニック、とりわけ文章表現のレトリック(修辞法)を身につけなければならない。端的にいえば、論文の書き方が重要なのである。優れた研究者になるためには、こういった論文執筆のテクニックを身につけなければならないということである。


Locke & Golden-Biddle (1997)は、上記の視点に立ち、経営分野におけるトップジャーナルであるAcademy of Management Journal (AMJ)およびAdministrative Science Quarterly (ASQ)に掲載された論文を精査し、そういったテクニックをあぶりだす試みを行った。彼らによれば、当該研究の貢献を明確に示すことができる優れた論文の書き方は、(1)テキスト間の一貫性(intertexual coherence)(多様な先行研究をうまく整理して一貫性を持たせること)、(2)そこから問題状況を設定する(problematizing the situation)(その問題を本研究が解決するというストーリーにすること)に分かれる。


まず、当該分野ですでに明らかにされていることについて、多様な先行文献などをうまく整理して示すことによって、本研究がどうやって、これまでの研究ストリームに乗っかったかたちで貢献していくのかについての道筋を作る、あるいはお膳立てをする。これが「テキスト間の一貫性」である。そして、これまでの研究ストリームに乗りつつも、そこにある問題状況を明確化することによって、それを埋めることによって本研究が貢献できるというスペースを作る。これが「問題状況の設定」である。

文献

Locke, K. & Golden-Biddle, K. 1997. Constructing opportunities for contribution: Structuring intertextual coherence and "problematizing" in organizational studies. Academy of Management Journal, 40, 1023-1062.