偶然を上首尾に利用し起業を軌道に乗せる

田尾(2003)は、起業家の分析において、偶然や流れに言及している。起業はゼロからのスタートであり、限りある蓄えを頼りに始めるが、これを急速に増やさねばならない時期があるという。組織の成長は、必ずJ字型かS字型のカーブを描くとされ、モタモタの時期を過ぎ、なんらかのきっかけで加速度的に事業を拡大するときがあるという。流れがこちらに傾いたときに、俊敏に乗らなければいかない。乗り遅れれば、ただちに失速してしまうという状況である。


流れに乗れれば、その後は通常のマネジメントが有効となるが、流れに乗ろうとする時期は、多少の、あるいは相当のムリをしなければならなくなるという。多忙な時は昼夜を分かたず働く。非常時に多くの人たちを投入する、つまりヒト、モノ、カネの最大動員を図れるような力の蓄えも必要である。起業の見通しを立てるためには、どの程度の自前の資源があるのかの棚卸を行い、どこでそれらを活用するかのニッチを発見し、さらに、しばしば偶然的に訪れる「上昇気流」を察知する必要があるというのである。


田尾は、起業を軌道に乗せるためには、当初は短距離走的な瞬発力が問われるという。あるところまではその人の実力が問われるが、それから先は、さまざまな偶然に左右され、運に翻弄される。絶妙のタイミングで参入し、運にも味方されることが成功につながる。特需という大きく需要が膨らむ時期に起業が重なりあえば絶好の機会となる。時代の波というものがあり、その時の時勢、時の勢いというものがある。それらを捉えることができるかというのも、起業家の能力や資質の一部といえよう。また、運を呼び込むことも、努力のなせる業ということもあるのである。