未来の起業家を育てるために重要なエフェクチュエーションと計画的偶発性

開業率が低い日本において、経済発展の持続を支える未来の起業家を育てるためには、若者の将来のキャリアのオプションの中に「起業」を含めてもらうことが決定的に重要である。

 

起業家への憧れ、起業への関心、起業の意図などは、起業を促すための「必要条件」である。必要条件であるから、学生時代などにこれらが芽生えたからといってそれが無条件に起業につながるわけではない。大半は起業をすることなくキャリアを終えるかもしれないが、その中から起業する人が一定数出てくると考えられる。一方、起業への憧れとか起業する意図がないのに起業する人は稀であろう。

 

起業というのは、意図を持ってアクションを起こすものであって、企業における人事異動のように、なんとなく、部署が変わってました、やる業務が変わってました、というキャリアの進み方とは大きく異なる。「よし、起業しよう」という決断がなければ起業することはほぼあり得ず、なんとなく仕事をしていたら知らないうちに起業家になっていましたという話ではない。

 

若者の起業への関心を高めてもらい、起業への意図(将来に起業するというキャリアのオプション含む)を促すのに重要な考え方が、サラスバシーが提唱した「エフェクチュエーション」とか、クランボルツが提唱した「計画された偶発性(計画的偶発性)」の考え方である。両者に共通しているのは、キャリアにせよ起業にせよ、目標をたててそこに至る道筋を計画し、それを実行するといった「コーゼーション」のアンチテーゼとなっていることである。

 

世の中の不確実性とか偶然性を逆手に取るというのも、エフェクチュエーションや計画的偶発性に共通する特徴でもある。コーゼーションの考え方に抵抗する理由は、世の中はそう簡単に予測可能でないし、だから計画通りに進むことはできないというものである。だが、逆に、世の中は複雑だから簡単に予測することなどできないということが真実ならば、それをうまく活用できれば成功する確率が高まる、という考え方である。

 

エフェクチュエーションの理論で言えば、「飛行機のパイロットの原則」でいうように、自分でコントロールできる行動だけに集中し、意図せざる偶然が起こった場合には、「レモネードの原則」でいうように、その偶然をうまく取り込んでいけば良い。

 

リクルート社のかつての社訓に、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というのがある。自分にとってチャンスとなりうる偶然も、それが生じるのを受身で待っているのではなく、自ら「計画的に」作り出していくべきというのが、「計画的偶発性」の考え方である。

 

若いうち、学生時代とかに、色々な偶然が自分に降りかかってくるような「タネ」をどんどん巻く。そうすると、偶然にも、魅力的な起業家と出会うチャンスも増えてくるとわけである。あの人のようになりたい、と強く憧れを抱くようなロールモデルが身近に登場すれば、起業への関心はグッとアップするはずである。

 

上記のような考え方のエビデンスを示した研究が、Hosomi et al. (2024)による、「Planned Happenstance and Entrepreneurship Development: The Case of Japanese Undergraduate Students」という論文で紹介されている。こちらは学生を研究対象として、どのような要因が、学生の起業意図を高めるかを検証したものである。

 

https://www.mdpi.com/admsci/admsci-14-00027/article_deploy/html/images/admsci-14-00027-g001.png

 

まず前提となるのが、ガチガチの安定志向でないこと。そのような学生は、まず公務員や潰れない大企業を志向するだろう。現在、そうでない学生は増加している。そして、多少のリスクを負いつつ、学生時代に、いろんなことにトライしてみるという「探索的な行動」である。研究では、起業に関連する探索的行動としているが、そうでなくても良いだろう。

 

学生時代に、授業だけでなく、あるいは授業はほとんど出ずに、アルバイト活動やサークル活動に明け暮れてましたという人も多いだろう。だが、一歩踏み込んで、もっと質の高い探索的行動を行うのが良い。アルバイトもサークルも、出会う人、付き合う仲間が同年代とか自分と類似している人々に偏ってしまう可能性が高い。そうではなく、老若男女いろんな人と出会えるチャンスが増えるような活動をするのが望ましい。

 

そうすることで、起業家や起業現場と出会うチャンスが増えてくる。Hosomiらは、そのような機会が増えれば、起業に関心を持ち、起業に憧れ、起業したい、起業しよう、という学生が増えるという仮説を立て、それを調査分析によって実証したのである。

 

さらに望ましいのが、学生時代に多くのリーダーシップ経験をしていること。この効果もHosomiらの研究結果で支持されている。リーダーシップ経験が多ければ、どのように人々を巻き込んで起業していけば良いのかのイメージが湧きやすいので、起業への関心がグッと高まると考えられるからである。

文献

doi.org