偶然を味方につける

植島(2007)は、生きていく上で偶然を味方につける技術を身につけるうえで示唆に富む本である。


植島のアドバイスの1つは、自分の身に大きな問題が起こった場合は、「できるだけ自分で選択しないように心がけること」である。なぜなら、人間は選択場面で間違うことが多いからだ。かつ、間違っても自分の選択した道にコミットし続けてしまうという心理もある。自分のした選択にとらわれて自由を失ってしまう。そうなると状況は悪化の一途を辿る。よって、相手に選択させてから判断するとか、なるべく選択しなくてすむように人生を操ることが失敗しないコツである。

  • 未来が見えないときは自分で選択するべからず

運との付き合い方については、多くの場合、勝っている人間は自然に態度が大きくなったり、持ち逃げしようとしてバランスを崩し、負けている人間は自分に疑問を持ちはじめ、萎縮してさらに負けることになる。いつも中庸でいられるおうに心を保つことができる人間が最終的な勝者になる。


乱数で意外と同じ数が続くのと同じように、悪いことが連鎖的に重なることもある。そういったときにどうすればよいか。植島のアドバイスは「まず身のまわりの簡単に片付くものから始末していくことが最善の方法」だということだ。もっとも困難な事項に気をとられがちだが、手近なところから片付け、事態が好転してくると、それが連鎖反応を呼び、すべてがよくなってくる。悪い出来事はそれぞれ独立しているのではなく、私たちの心を通じて何らかのかたちでつながっている。よって、簡単なことから改善されてくると、それも連鎖していくのである。

  • 悪いことは連鎖する。悪い連鎖を断ち切るためにはまず簡単なものから取りかかる


そして、植島は「よい流れには黙って従うのがよい」と得く。いかなるときでも、好ましい流れは自分から放棄してはならない。自分から動いてはいけない。流れが悪くなったら、そのとき初めてどうすればよいか考えればよい。運命がわれわれを導いてくれるように、さりげなく振る舞うことが肝心だと言う。

  • 好ましい流れのときは自分から動いてはいけない。自分をよい方向に運んでくれる流れに素直に身を任せる。


流れの読み方、流れとの付き合い方については、植島によると、場の流れと自分の考え方が違うと何をやってもうまくいかなくなる。この場合「自分をなくす」ことがもっとも理にかなった行動だと説く。自分を前面に出すほど周囲が見えなくなってくるので、自分を限りなく縮めていって流れ(理)を見えやすくするわけである。

われわれのこの世界には「偶然」がその構造の基底部に含みこまれている。しかし、それゆえにこの世界には(逆説的に)方向性が生まれるのである。・・・もし偶然の力を最大限に生かすとしたら「すべてはなるようになる」という柔軟な姿勢は不可欠であろう(植島2007:217)。