論文導入部のストーリー展開

論文の書き出しの部分、すなわち導入部分はとりわけ重要であることは言うまでもない。論文の序論は、読者を魅了するような問いを発することが主たる目的となる。


しかし、まずもって、読者の関心をこの論文に向けさせなくてはならない。読者の注意を論文に向けさせ、読者と筆者が同じ土俵にたち、問題を共有したうえで次の展開に持ち込むのである。そこで、読者を論文にひきこむのに効果的なのが、ストーリー仕立てによる導入である。物語構築力は論文全体を通じて重要であるが、ことさら導入部分で成否の鍵を握るのだ。


基本は、読者がすでに知っていることを要約しつつ、それをストーリー仕立てで説明しながら、論文の核心となる問いに誘導することだ。読者に親しみのあるトピックで始める。自分がよく知っているがゆえに心地よい話やフレーズであれば、読者は論文の読み始めのときに雑念を生むことなくすんなりと文章に入っていけるからである。聞きなれた音楽やメロディーを聞くのと同じである。


読者のよく知っているストーリーを展開することによって、論文への関心を高めていく。合意できる内容であれば「うんうん」「そうそう」と読者はうなずきながら読み進める。読者はうなずきつつも、それで?だから何?という疑問がわいてくる。そこで、ストーリーの構成を、わかっていることを当たり前のように要約するのではなく、それまでとは異なる構造で要約していくことにより、「確かに、ここが問題だ」ど読者が納得するような新たな問いが湧き上がってくるように仕立てるのである。


ストーリーに読者を引き込みながら共通の土俵に立ったうえで、読者も「確かにそのとおりだ」と納得する問いを明らかにし、「だから、本論文ではこの問題に果敢に取り組もうとするのである」という形で、読者を論文に引き込むのである。