論文投稿の長い旅1

調査・研究において、必要なデータを集めて分析をすると、どれくらいよい研究成果になりそうか、どれくらいレベルの高い論文になりそうかがなんとなくわかってくる。


暫定的な結果に基づいて、論文全体の大まかなストーリーを練る。そこから長い時間をかけて詳細な分析を繰り返し、先行文献を参照し、ロジックを精緻化しながら論文を書く。著者のレベルで完璧になるまで推敲する。この時点で、ある程度論文のクオリティに自信が出てくるが、著者サイドではどう改善すればよいかわからない問題点や、著者サイドでは気づかない問題点もありそうなので、第3者からの深いフィードバックが欲しい段階である。


まずは、メジャーかつレベルの高い学会の査読つきの学会発表に投稿する。アクセプト率は半分強であるが、アクセプトされたからといって有望な論文とは限らない。2〜3ヵ月後にアクセプトの返事があり、3〜5人くらいの匿名査読者からの簡易な査読結果が帰ってくる。短いコメントなので、一般的には論文の改訂に役立つ突っ込んだコメントはあまりない。そのコメントを見て、論文がより改善されそうであれば改善する。


論文を仕上げる途中の段階で、ターゲットとするジャーナルを決める。論文のクオリティからいくとかなり難しいのだが、最初は分野で最もレベルの高いジャーナルをターゲットとして設定する。最もレベルの高いジャーナルだということもあって、論文のクオリティとの比較では、掲載される可能性としては20%くらいだろうという読みである。ただ、掲載不可であっても論文を改善するのに役立つ優れたフィードバックが見込まれるため、十分に投稿する価値はあるという判断である。ターゲットが決まったので、そのジャーナルに掲載される論文のレベルを参考にしながら論文を仕上げていく。


論文が十分に改訂され、現段階でのベストを尽くしたという感じた状態になったので、ジャーナルに投稿する。1ヶ月半後に結果が返ってくるが、残念ながら不採用。3名の匿名査読者のうち、2名がネガティブで、1名は大幅な改訂がないと難しいという判断に基づくものである。主な理由は、ロジック的に不明瞭・不十分なところがあることと、実証部分で問題があるところで、理論的・実証的な学術的貢献という面で、ジャーナル掲載に求められる要求水準を満たしていない、あるいは改訂しても満たせないだろうという判断に基づくものである。


トップジャーナルなので不採用の決定は想定の範囲内ではある。それよりも、期待通り、匿名査読者3名からのコメントは、厳しいが的を得たものであり、かつ内容も深いため、論文を改訂するのに大きく役立った。コメントは、長所を褒めることは紙面がもったいないので通常は省き、論文の問題点、弱点と、それに対する改善の方向性の示唆が中心となる。論文のよい点を指摘しても、モチベーションの向上にはなるが、論文を改善する材料にはならない。なので、厳しくとも、論文の弱点を徹底的に叩くことが大切なのである。方法論上の問題とともに、理論的なつながりの欠陥も厳しく指摘してくるので、それらを改善することによって、論文全体の理論的な部分や分析内容を強化することができた。