"流れ"の感覚 理論で表現

 私は、「流れ」というものに非常に大きな関心を持っています。「流れ」は、ビジネスの世界はもちろん、人生や、サッカー・野球などスポーツの試合においても、勝敗を左右する重要な要素です。「流れ」を自分のものにする、あるいは「流れ」を作っていく、つまり「流れをマネージする」ことが、あらゆる分野に共通する成功のコツと言ってよいでしょう。
 かつて私は、コンサルティング会社に勤めていたことがあります。経営上の問題を抱える企業を訪ね、解決策を模索するのですが、最初はバラバラだった社員たちが様々な議論を経て、徐々にひとつの方向性にまとまっていく。流れができていくんです。「企業や組織を変えるには、流れを作ることが大切なのだ」と、当時の経験を通して実感しました。
 では、どうやって「流れ」を掴み、自分のものにしていくのか。あるいは、どう新しい「流れ」を生みだしていくのか。研究を進めるうえで基本となるのは、組織やチームにおける成功や失敗の事例です。たとえばゼロから会社を立ち上げ拡大した経営者たちに、なぜ成功できたのかをインタビューする。または実績のあるスポーツ関係の監督に、いかにして試合における良い流れを持続していくのかなど、体験談を語ってもらう。
 現在、あらゆる分野の人たちから情報を集めている最中ですが、私は「流れ」のマネジメントを成功させるポイントが3つあると考えています。一つは的確に「流れを読む」こと。社会の動きや人々のニーズの変化といった時流や、企業がどんな経緯を経て、どういう方向に向かっているのかを正確に読みとる。次に「流れを操る」こと。悪い流れは断ち、良い流れを大きく育てていく。あるいは新商品・新規顧客などを開発・開拓し、これまでにない「流れ」を作っていく。そして最後に、適切なタイミングで「流れに乗る」こと。ただ流されるのではなく、積極的に良い流れに乗っていくということです。この3つの行動がうまく循環すると、ものごとはトントン拍子に進んでいきます。
 今後は人の話を収集するだけでなく、何らかの形で私自身が「流れのマネジメント」を実践し本質に迫りたいと思っていますが、「流れ」に関する研究の最大の難点は、研究成果を言葉で表現しにくい点。「流れ」という言葉は誰でも自然に使っていますが、「流れを読む・操る・乗る」という行動は、成功した人たちが実践を通して感覚的に把握しているもの。そこから成功のエッセンスを抽出し、理論やモデルとして言葉で表現するのは容易ではなく、確たる研究成果を発表するには、まだまだ時間がかかると思います。しかし将来的には、こういった感覚的なマネジメント、「流れ」を見ながら行動を微調整していくという日本的経営の素晴らしさを、海外にも広くアピールしていきたいと考えています。
KEIDAI DAYS 2004.8.
http://www.osaka-ue.ac.jp/public/PDF/KD12.pdf