コーポレートガバナンスの比較制度分析

資本(広義の資本)がコーポレートガバナンスに影響する命題

財産権
  1. 財産権保護に関して大株主を優遇する制度の国では、資本は企業に対して戦略的関心*1を追求し、コミットメントによるコントロール*2を志向する。
  2. 財産権保護に関して少数株主を優遇する制度の国では、資本は企業に対して財務的関心*3を追求し、流動性によるコントロール*4を志向する。
金融システム
  1. 銀行金融(間接金融)中心のシステムを持つ国では、資本は主に負債(貸付)とコミットメントによるコントロールを志向する。
  2. 市場金融(直接金融)中心のシステムを持つ国では、資本は主に株式と流動性によるコントロールを志向する。
企業間ネットワーク
  1. 多重的な企業間ネットワークが強い国では、資本は企業に対して戦略的関心を追求し、コミットメントによるコントロールを志向する。
  2. 多重的な企業間ネットワークが弱い国では、資本は企業に対して財務的関心を追求し、流動性によるコントロールを志向する。

労働側がコーポレートガバナンスに与える影響に関する命題

企業内での代表権
  1. 企業内における労働者代表権が強い国では、労働側は、企業内部における経営参加による影響力の行使を志向する。
  2. 企業内における労働者代表権が弱い国では、労働側は、企業外部からの圧力による影響力の行使を志向する。
労働組合
  1. 階級別、職業別労働組合型の国では、労働側は、企業外部からの圧力による影響力の行使を志向する。
  2. 企業内労働組合型の国では、労働側は、企業内部における経営参加による影響力の行使を志向する。
技能形成
  1. 市場ベース、政策による技能形成を中心とする国では、労働側はポータブルスキルを獲得し、外圧による影響力の行使を志向する。
  2. 企業内技能形成を中心とする国では、労働側は企業特殊的技能を獲得し、内部による経営参加に基づく影響力の行使を志向する。

経営側の特徴がコーポレートガバナンスに与える影響に関する命題

イデオロギー
  1. 一般的知識と階層的な意思決定を正当化する経営イデオロギーを持つ国では、経営者は大きな自律性を持ち、財務志向である。
  2. 科学的専門性とコンセンサス的意思決定を正当化する経営イデオロギーを持つ国では、経営者は企業に高いコミットメントを示し、機能志向である。
キャリアパターン
  1. 経営者の市場性がクローズドである国では、経営者は企業に高いコミットメントを示し、機能志向である。
  2. 経営者の市場性がオープンな国では、経営者は大きな自律性を持ち、財務志向である。

*1:投資収益率ではなく、支配権などの非金融的関心

*2:自分の意に沿わない場合には企業経営に介入する

*3:投資収益率の追求

*4:自分の意に沿わない場合には株式を売る