エージェンシー理論とスチュワードシップ理論

  • エージェンシー理論

所有と経営の分離によって、企業を所有しない専門経営者が経営を行なうようになると、エージェンシー問題が浮上する。エージェンシー理論によると、依頼人代理人の関係では、代理人が自己利益の追求に動いたさいに、依頼人の利益を損ねる可能性を指摘する。企業経営に関して言えば、企業を動かす裁量のある経営者が、自己利益を追求ために権益を行使する行動に出るならば(例えば、自分の報酬の拡大、自分の権威や影響力の維持)、それは企業の所有者の利益を阻害することにつながりかねない。

  • 自己利益の追求という経済学的前提は、ガバナンスの社会的・文化的・制度的文脈を考慮しないもっともシンプルなモデルである。
  • スチュワードシップ理論

エージェンシー理論では、経営者の自己利益追求行動の可能性を前提とし、それを防ぐためのモニタリングの仕組みとしてコーポレートガバナンスを捉える理解に発展する。しかし、そういったエージェンシー関係は、例えばアメリカのような文脈に限定されるのではないかという考えから出てきているのが、スチュワードシップ理論である。
この理論は、エージェンシー問題(経営者の自己利益の追求)を前提とせず、経営者は、所有者(依頼人)の意図に沿う行動をするように動機付けられていることを説く。とりわけ、集団主義的で階層的社会である日本では、そういった傾向が強いのではないかと論じる。そうであれば、エージェンシー問題を前提に経営者を監視するようなシステムが必ずしも最適なコーポレートガバナンスとは言えなくなる(冗長である)。
むしろ、ガバナンスの別の機能(例えば、経営者へのアドバイス機能や、外部資源との連結機能)が、ガバナンス機構を考えるうえで重視されるべきなのかもしれない。