研究の出発点に位置するのが研究テーマの設定であるが、これは最も難しいプロセスかもしれない。いかなる研究テーマを選ぶかは、そこから生み出される研究がどれだけ価値があるのかを大きく規定するからである。例えば、つまらない研究テーマを選んでしまえば、研究成果が面白いということはほとんど期待できない。
経営学のトップジャーナルであるAcademy of Management Journal(AMJ)では、AMJに掲載されるような優れた研究成果を行うためのポイントをシリーズで紹介している。その最初が、研究テーマの設定方法である。それによると、優れた研究につながるテーマの要件は、「有意義性(significance)」「新規性(novelty)」「好奇心(curiosity)」「幅の広さ(scope)」「アクション可能性(actionability)」である。
有意義性のポイントは、これまで解決が困難であった重要な課題に対して、異なる切り口などを用いて果敢にチャレンジするようなトピックである(ground challenging)。そのような研究によって新たな突破口を開くことは、しばしばパラダイム・チェンジをもたらす。
新規性のポイントは、人々の関心や議論をこれまでとは違う方向に向かせるようなトピックであることである。多くの人々にとって馴染みの深いトピックを選んでしまうと、それほど目当たらしさを見いだせない。また、成熟したトピックを選らんでしまうと、マージナルな研究成果しか生まれず、その分野にインパクトを与えられない。そして、すでに知られている研究成果に近い領域を選んでしまうと、研究成果に重複感が出てしまう。
好奇心のポイントは、トピックが読者の好奇心をくすぐるものであるということである。これまで当然とみなされていた暗黙の前提を覆すような意外な結果を提示するものであったり、驚くべき結果を準備したミステリアスな部分を持っているトピックであったりするものである。
幅の広さのポイントは、使用するコンセプト、変数、サンプルといった研究要素の範囲が、困難な課題にチャレンジする野心的な研究にふさわしい程度に広いものかどうかとうことである。壮大な研究テーマの一部を切り取ってしまったような薄い研究はインパクトに欠ける。大きな問題、重要な問題に果敢にアプローチするに足る包括性が必要である。
アクション可能性とは、研究成果が、実践におけるアクションにつながるものであるかという点である。経営学である以上、経営の実践になんらかのインパクトをもたらすものでなければならない。実践する側の直観に反するような発見、新しくかつ重要な経営施策の効果、経営手法に内在する矛盾や帰結、現状を理解するのに有用な理論、新たな疑問や施策につながる皮肉な現象、などは、実践においてなんらかのアクションにつながりやすい。
文献
Colquitt, J. A., & George, G. 2012. From the editors: Publishing in AMJ - Part 1: Topic choice. Academy of Management Journal, 54, 432-435.