神田(2009)は、読者や観客が時間を忘れて没頭する物語(ストーリー)は千差万別のように思えるが、実はあっけないほどシンプルな共通パターンがあると説く。それは、「ありふれた日常」→「非日常」→「新しい日常」あるいは旅にたとえて「出立」→「非日常への旅」→「帰還」というパターンである。
物語はまず「ありふれた日常」から始まる。そこにちょっとした事件が起こる。平穏な日常を崩された主人公は、気づいたときには巻き込まれ、非日常の世界で、葛藤を重ね、自分の内面を見つめ、能力を磨き、事件を乗り越えていく。最後にはハッピーエンドを迎え、自分のあるべき姿を取り戻す。それが新しい日常になっていく。つまり、日常の世界から、非日常の世界を通過することによって、主人公が成長し、日常の世界に帰ってくるというもので、ジョセフ・キャンベルによって見出された。ヒーローズ・ジャーニーと呼ばれている。
また神田は、すべての登場人物とのさまざまな絡み合いの中で、全員が見事に成長していく複線的な物語の構造も紹介している。物語を通じて成長するのは主人公だけではなく、すべての登場人物である。このように複数の登場人物を絡み合わせることによって、観客はたとえ主人公に自分を重ね合わせることができなくても、他の登場人物の誰かには自分を重ね合わせることができるので、その物語に没入できるようになるのだという。