認識と行為が生む社会現象

友枝ほか(2007)では、予言の自己成就について、社会現象の本質を以下のようにとらえながら説明している。


地球の運行のような自然世界は、人間の予測とは無関係な自然法則によって決定されていると考えられるのに対し、人々のかかわりによって生み出される社会現象は、すべて「認識」という人間の営みに媒介されている。つまり、人々は自分をとりまく状況を認識し、その認識に基づいて行為を行っており、その行為をもとにして社会が成り立っている。よって、社会的世界は、人間の認識的営みから独立して存在するのではない。


この社会現象をかたちづくる人間の認識と行為の関係には、循環的な過程(フィードバック)が見られる。ネガティブ・フィードバックは、一定の状態を保つような働きをするが、ポジティブ・フィードバックは、認識と行為が繰り返される中で、初期状態からどんどん離れていく。これが社会現象の好循環や悪循環の原因となる。また、人間にとって認識の対象となるのは、環境のみならず自分自身も含まれるので、環境イメージを導くフィードバックと、自己イメージを導くフィードバックがある。


人間の認識能力には限界があるために、しばしば行為は意図せざる結果を生むが、その結果の認識とそれにともなう予測が循環し、ポジティブフィードバックを生じさせると、予言の自己成就が生じ、虚偽の真実への移行も起こりうる。社会現象は常に人間の認識に媒介されており、予言として立てられた認識は、人々の行為に影響を与えて社会的現実を変える可能性をはらむため、社会的世界においては、虚偽と真実との関係はきわめて流動的になる。