語りとしてのキャリア(引用)

本書は個人の主観的なキャリアにかんして、変数間の因果関係の特定を目指すような仮説構築、あるいは法則発見への指向を否定する。・・・語りのプロセスを通じた個人の主観的意味構成について、それを当事者による1次的構成物として位置づけた上で、そこから物語を構成する類型を見出すことにより、2次的構成物としてのモデルを生成する。そこでの目的は、人間行動の本質の解明ではなく、個人の主観的意味世界の理解である。・・・2次的に構成された意味は、個人による主観的な1次構成物の再構成であるとはいえ、それは研究者自身の解釈図式に基づいて行なわれることを自覚した上で実践される。・・・よって、本研究において提示される新たな概念、あるいはそれらからなる新規枠組みは、個人の本質を表現したものではありえない。むしろ、そのようなモデルは、新たにキャリアに意味を付与する際の枠組みとして使用される性質が強いのである。
加藤(2004:79-80)

本書における発見的枠組みは、既存理論における変数化される対象としての概念とは位置づけが異なる、・・・本調査において収集された語りの分析を通じて再構成された「霧」と「希望」のメタファーに基づく枠組みは、旅のメタファーの範疇に収まりながらも、不透明な中でも旅を続ける個人の動機を表現したと考えられるものである。
加藤(2004:153)

本章では、・・・旅のメタファーの範疇において、個人のキャリア・マネジメントの動機にかんしてある程度の表現力を持ったモデルを提示してきた。ただし、これは個人のキャリアに関する本質を表すものではない。それは意味構成が困難な自己の行為にかんして、他者に理解可能な、かつ自分自身にとっても心地よいルースストーリーへ組み上げていこうとする営みから生み出された物語の型である。
加藤(2004:191)


語りとしてのキャリア―メタファーを通じたキャリアの構成
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