業績下降時の成果主義導入は危険

業績下降時の成果主義導入(とりわけ個人別成果主義)は、業績を高める要因にはならない可能性が高い。業績が下降している状況では、報酬原資が縮小傾向にある。成果主義の導入は、この縮小傾向にある限られた報酬原資を社内の人材で奪い合うという構図につながる。それは、社内の無意味な競争を促すのみで、企業全体の業績を押し上げる方向には作用しない可能性が高い。


限られたパイを奪い合う競争のもとでは、自分の報酬の上昇は、他の社員の報酬の減少によってまかなわれるわけであるから、構図としてはwin-lose型になっている。社員が全員で協力して企業業績があがり、分け合うパイ全体が増えればみながその恩恵を受けることができるというwin-win型の構図にはとうていならない。自分達の努力が企業業績に結びつくというよりは、現在の業績低下傾向が、景気の悪化やトップの戦略の失敗など、自分達のコントロール以外のところにあると知覚している場合はなおさらである。社員間の協力・チームワークを促すことにはならない。


逆に、企業業績が向上しているとき、企業が成長しているときは、成果主義を導入することにより組織が活性化する可能性はある。全員の報酬が増加傾向にあるなかで、社員の企業に対する愛着心も高まりつつあり、態度がポジティブな状態になっている。その中で、追加の報酬上昇分を誰が多くとるかはフェアな視点で決めるべきというコンセンサスは社員間で形成されやすいからである。自分の給料が下がるかもしれないとなると社員は過度に防衛的になるが、継続的な上昇が見込めるなかでは、社員間に差がつくことに関しては、それが納得のいく基準でなされるのであれば比較的寛容になるものと思われる。それよりも、業績が上昇傾向にあるときは、協力関係、チームワークを継続してさらに企業を発展させ、自分達の得られるパイを大きくしていこうとするwin-winの関係に社員の目が向くことになるだろう。