経営組織論(1部)

採用者数の決定

ケース

B社は今年の新規学卒採用枠を2名に設定した。しかし、実際に募集してみると応募者が多数あり、選考を行なった結果、能力的に甲乙つけ難い人材が4名いることがわかった。その4名よりは能力的に劣るが、それでも魅力的な人材がさらに4名いた。残りの応募者はB社にとって必要のない人材だと判断された。しかし、採用枠が2名なので、ほとんどくじ引きのような決断で2名のみを採用することにした。

分かりやすい例
原則
  • 労働者の雇用によってもたらされる利潤の増分がプラスである限り、企業は労働者を採用し続けるべきである。
  • 限界コスト=限界収入となるところまで採用し続けるべきである。
  • 企業の財務状況とは無関係である。
ポイント
  • 限界生産力逓減の法則


総・平均・限界概念

リスキーな労働者の採用

ケース

C社の採用選考の最終候補者として、対照的な2人が残った。X氏は、安定的に年間2000万円を稼ぐことのできる人材である。Y氏の業績予想は不確実で、50%の確率で、年間5000万円の利益を稼ぎ続ける可能性があるが、残り50%の確率で年間1000万円の損失を出し続ける可能性のあるリスキーな人物である。C社としては、どちらを採用するのが合理的なのだろうか。

わかりやすい例

あなたはプロダクションのスカウトで、将来のアイドル・スターの卵を探すため、街を歩く少女をスカウトしている。容姿も性格も強烈で、まったく世間に受けない可能性もあるし、それによってもしかしたらプロダクションの信用を失う可能性もあるが、もしかしたら大化けして大スターになるかもしれない何かをもっている少女と、容姿も性格も並で、大化けはしないがそこそこコンスタントに何かの仕事がこなせそうな無難な少女と、どちらをスカウトするか。

原則
  • 期待値と給料が同じ2人の労働者がいるとするならば、リスクの大きい労働者を採用するべきなのである。なぜなら、ダウンサイドリスクが顕在化した時点でその労働者との雇用関係を解消すればよいからである。
  • 従業員の生産性がわかるのに要する時間が短ければ短いほど、リスキーな労働者の価値は高い
  • 労働者が若ければ若いほど、リスキーな労働者を雇う価値は高い

適任者の採用

採用の効用尺度
http://www.geocities.co.jp/WallStreet/4716/utility.htm

ケース

A社の人事部門は、今年度の採用の方法について考えていた。目標は明確で、いかにして自社にとって必要な人材(費用対効果から見て有能な人材)を採用できるかである。そのためには、募集活動をして、有能な人材に自社を受けてもらわなければならない。
募集案内をするにしても、どうすれば、自社にとって必要な人材だけが応募し、そうでない人材が応募してこないようになるのだろうか。そうすれば、少数でも質の高い応募者が獲得でき、そこから選考をすれば、選考コストもそれほどかからない。

情報の非対称性と逆選択への対策

自分の生産性についてはよくわかっている応募者(企業側はよくわかっていない=情報の非対称性)が、自分がその企業で高い生産性をあげることができないことをわかっていながら、うまくその企業にもぐりこんで、自分の生産性に比して割高な報酬を受け取ろうとする行動(逆選択)をどうすれば防ぐことができるか。

  • 初任給を高給にする。
    • 不必要な人材まで応募してしまう--選抜コストの増大
  • 応募に当たっての資格要件を付する
    • 資格取得能力と職務業績との相関
    • 資格のある労働者とそうでない労働者の賃金格差が大きくない(大きくないということは、それでも資格を取得する人材の能力が高いことが示唆される。大きいと、無理してでも頑張って資格をとろうとする人がでてくる)
    • 必要とする人材にとっては資格取得が易しく、そうでない人材にとっては資格取得が難しい。
  • 不確定契約にする
    • 出来高払いにすると、業績をあげる自信のある人のみ応募してくる
    • 能力の把握が短期間で難しい場合は、仮採用という手段も考えられる
      • 適切な仮採用期間の設定(以降は終身雇用権)

モニタリングコスト

出来高給の給料は良質の労働者をひきつけるが、平均賃金が高まり、モニタリングコストの負担が大きくなりやすい。

試用期間と正社員後の給与格差をどうするか

企業が使用期間を設けて、優秀だと判明した場合にのみ正社員として採用するとしよう。この場合、試用期間の給料と正社員の給料には格差を設ける。これによって、試用期間の給料が低くても、正社員になれる自信のある者のみの応募を促進することにつながる。


しかし、もし試用期間中に本人の能力を見抜けない場合、優秀でない人物を正社員にしてしまうリスクがある。その可能性が高まると、優秀でない人材も、その会社に入社したいというインセンティブが生じてしまう。これは会社にとっては避けたい。


能力の低い人物が試用期間で見抜けないリスクが高ければ高いほど、試用期間と正社員後の給与格差を大きくする必要がある。給与格差が大きくなればなるほど、能力のない人物にとって、正社員になれるなれない両方の確率を加味した給与の期待値が下がる。


一方、能力のない社員にも、その能力に見合った給料が見込める会社に入社するという代替案がある。よって、企業としては、自社に対する給与の期待値が、代替案の期待値を下回るところまで、給与格差を増大させればよい。そうすれば、能力のない人物は代替案(別の能力に見合った会社に入社する)ということを選択するのが合理的となり、リスクを犯して自社に入社するインセンティブがなくなるのである。


労働市場における、能力ある者と能力のない者の賃金格差が高まれば高まるほど、同じように試用期間と正社員後の給与格差を拡大する必要がある。上記と同じような論理で、もしかしたら正社員になれるかもしれないというリスクを犯して自社に入社するインセンティブを低減させる必要があるわけである。

振り分けの重要性

  • 男女間格差の本質