人材マネジメントの発生論的アプローチ

人事制度について議論していると、議論が堂々巡りすることがある。人材マネジメントの発生論的アプローチとは、未組織状態から大きな組織になっていくにつれて、人材マネジメントの仕組みがどのように出現してくるのかを理解することによって、人材マネジメントの本質を捉えようとする試みである。


例えば、メンバーが5人くらいしかいない未組織状態の会社を考えてみる。人のマネジメントで大切なのは、適切なメンバーをリクルートし、適材適所をはかり、やる気を出させ、育成し、実力を高めてもらう、ということだろう。そのために、トップは彼らにやりがいのある仕事を与える。彼らは仕事を通じて学び、成長する。


こう考えると、未組織状態の人材マネジメントは、社長によるリーダーシップそのものと同義といってもいいかもしれない。5人程度しかいない会社の場合、社長の実力があらゆる事柄を左右するのであり、人のマネジメントもそうである。その人の力量に左右されるわけである。


しかし、事業の成長とともに、未組織から組織になり、さらに組織が拡大していうとどうなるだろう。社員が増加すれば、社長1人のさじ加減では到底手に負えなくなる。当然のことながら、一人ひとりを把握できなくなるからだ。よってここで、人のマネジメントを「仕組み化」して「制度化」する必要性が生じる。これがいわゆる、会社の人事制度へと発展していくわけである。


人のマネジメントを、それを組織の仕組みとしてインストールするための人事制度として構築しようとしていくと、そこには法律的観点や規制的観点を盛り込んで行く必要がある。給与計算やら、社会保険やらといった労務管理的要素も加味される。このように、人事制度にさまざまな要素が加味されることによって、事務作業もふえ、事務的な専門職員を雇うようになってくると、だんだんと人事制度は複雑化し、当初の目的がなんだったのかがわからなくなってくるのである。


人材マネジメントのプロというよりも、労務管理や労使関係、職場紛争解決、労働法などのプロが幅を利かすようになる。それはそれで重要なことであるが、発生論的に考えた場合、未組織状態のときに当たり前にやっていた「人のマネジメント」がおざなりになる可能性が出てくるのである。つまり、人事制度が、適切な人材をリクルートし、適材適所を実現し、社員のやる気を高め、育成し、実力をつけてもらうといった機能を適切に果たさなくなってしまう可能性があるのである。