インタビューの理論的地平

桜井(2002)によると、聞き取りには「実証主義」「解釈的客観主義」「対話的構築主義」という3つの立場がある。実証主義は、人々の語りは事実を傍証するという立場であり、解釈的客観主義は、人々が語る解釈を重ね合わせていけば、ある客観的な歴史的事実に到達するだろうという発想である。一方、対話的構築主義は、相手と向き合って話し合い(対話し)、何かを作りあげる(構築する)という立場である。


私たちは、聞き取りの場では1つの時間を生きているのではなく、1つの物語を聞いているのではない。そこには多元的な時間が流れている。聞き取りの録音を語られたとおりに詳細に書き起こしていくなかで、この多元的な時間を生きている私たちの姿に気づいていく(好井 2006)。


ライフストーリーに関していえば、人々は自らの生活史を振り返りながら、過去の自分と周りの世界についての経験をインタビュアーに語るという意味では、人々はライフストーリーが生み出される源泉となる生活史経験を持ち、その経験をもとに自らの周りの社会や歴史に対する見方を再編成してストーリーを構築するといえる。しかし同時に、人々は語ることによって自らの経験を構築し、生活史経験というものを再構築するとも言える。


語りはインタビュアーの直接的な質問や応答を介した対話によって生成するから、語り手の(過去)の経験の物語といえども、インタビューの(現在)の場に拘束されて、相互的に構築されるものである。かくして、人々の社会観や歴史観は、こうした語りの日々の実践をとおして構築され、維持されているのだと考えられる(桜井 2005)。