世論の風向きと安倍政権の失速

有斐閣の「書斎の窓」564号に芹沢洋一氏による「安倍政権の支持率を考える」という小論がある。これを題材に風向きと安倍政権の飛行(走行)経路を検討してみる。


まず、芹沢は、小選挙区比例代表並立制になった1996年の選挙から、党首の人気が選挙に大きな影響を及ぼすようになったと論じている。よって、内閣支持率も政局を左右する重要なファクターとなった。そして、この支持率を左右するうえで大きな役割を果たしているのが「メディア」であると説く。


安倍首相の場合、小泉氏からバトンタッチした時点では支持率が70%に達し「ロケットスタート」とも呼ばれる好スタートを切ることができた(もっとも、国民の人気が安倍氏を首相に押し上げたという要素もある)。よって、安倍内閣成立時には、小泉氏の抜擢人事やその他の要因による上昇気流で人気も上昇し、ついに首相の地位に達した安倍氏が、さらにエンジンを全開にしたかたちでロケットスタートを切ったと解釈できる。


ところが、その後さまざまな政治的処理でのもたつきが目立つことになり、支持率が下降線をたどるようになる。順風満帆といった追い風を背景に好スタートを切ったところまではよかったが、安倍氏本人の経験不足や個性の強い小泉氏とのコントラスト効果などで、すぐさま燃料不足に陥った。燃料不足に陥れば前に進むことはできず、なんとか気流に乗っていれば前にいくが、次第に下降していく。あるいは燃料というよりはもともとつんでいるエンジンの強さとも関連している。安倍氏は、小泉氏ほどには駆動力・推進力がなく、つまり前進するためのエンジンがたくましくなく、それがさまざまな政治的イシューでのもたつきや「顔の見えない」リーダーシップという批判につながってきた。


そして、さまざまな怪しい雰囲気がただよいはじめ、安倍政権を後押ししていた上昇気流までもが怪しい風に変化する。追い風が向かい風になってくるのである。そのメカニズムの背後にあるのがメディアの特徴である。多くが賞賛している中で1社だけ批判するのは勇気がいることだが、いったん、全体的な論評の風向きが批判的な方向になってくると、各メディアは次々とその流れに乗るようになってきたのである。そうすると、順風はしだいに逆風に変わり、安部政権は苦境に立たされることになった。もちろん、メディアの動きには多くの一般人の世論が影響を受け、それが支持率というかたちで反映されるわけである。


メディアも含めて、この大きな風向きの形成や変化に影響を与えるのが、「便乗する人々」の存在である。とくに日本はこの傾向が強い。メディアが煽り、人々がそれに影響され、さらに本来関心がなかった人までもが便乗して特定の批評や現象に乗っかってくる。それが「ヨン様」や「レイザーラモン」や「ハンカチ王子」のような一大ブームのような社会現象を巻き起こしたり、一時のヒーローを天辺から突き落としたりする。一般大衆という力がものすごい上昇気流になったりものすごい逆風となって襲い掛かられては、どんなに力があっても太刀打ちできないだろう。