女性リーダーが直面する数多くの困難や障害をどう取り除くか

組織において、女性のリーダーは、男性のリーダーが経験しないような数多くの困難や障害に直面する。これが、企業における女性役員の割合、女性管理職の割合の少なさに大きく影響している。日本では特にこの傾向は顕著だと言えよう。このような女性リーダーに特有の困難・障害のほとんどは、企業社会、もしくは社会一般における女性に対する偏見やステレオタイプに起因するものである。女性に対する偏見やステレオタイプは、意識的に行われるものもあるが、無意識的に生じるものもある。無意識的に生じるものは、偏見やステレオタイプを用いて女性を見る人々が無自覚であるがゆえに克服するのがより困難であるとも言える。偏見やステレオタイプに基づく女性リーダーに対する障害は、リーダーとしてのポテンシャルを持った女性や既にリーダーとなった女性の内面にも影響を与え、それがリーダーとなることを志望する女性の数を減らしているという悪循環に陥っている。

 

では、女性リーダーの育成を活発化し、女性リーダーの割合を増やしたい組織、そして女性リーダー自身は、上記に挙げたような困難・障害をいかにして乗り越え、悪循環を断ち切り、逆に、困難や障害を排除してサポートを増やすことでリーダーを志望する女性を増やすといったような好循環を生み出すには具体的にどうすれば良いのだろうか。以下において、Galsanjigmed & Sekiguchi (2023)のレビューに沿って説明を試みる。本題に答える前に、まず、女性リーダーが直面する困難や障害にはどのようなものがあるのかを整理しておこう。女性リーダーが直面する困難や障害には、女性リーダーを取り巻く環境に起因する外的要因と、女性本人の意識に起因する内的要因がある。どちらも、社会における女性に関する偏見やステレオタイプ(例、女性は家庭を守る存在である、女性はリーダーには向いていない)に基づくものが大半である。Galsanjigmed & Sekiguchi (2023)は、以下のように整理している(詳細はオープンアクセスである当該論文を参照のこと)。

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外的要因

  • ガラスの天井(glass ceiling)
  • 粘着フロア(sticky floor)
  • リーダーシップの迷宮(leadership labyrinth)
  • 女性リーダーシップ・プロトタイプ(female leadership prototypes)
  • 管理職といえば男性という連想(think manager-think male)
  • 危機といえば女性という連想(think crisis-think female)
  • ダブルバインド(bouble bind)
  • 反発(backlash)
  • リーダーシップ開発機会の欠如(the lack of leadership development)
  • ガラスの崖(glass cliff)
  • 女王蜂シンドローム(queen bee syndrome)

内的要因

女性は、企業などの組織に入社し、キャリアを始める瞬間から既に偏見やステレオタイプに起因する困難や障害にさらされている。「ガラスの天井」は、女性が管理職などに昇進するのを妨げ、「粘着フロア」は、女性を組織の底辺に粘着テープのように吸い付けて彼女たちがキャリアの階段を上昇していくことを妨げる。女性が努力や能力によってガラスの天井を突き破ってリーダーとなっても、リーダーの階段を登りより高いレベルのリーダーに昇進しようとすればするほど、彼女への風当たりは強くなる。つまり、さらに強い困難や障害が降りかかってくる。1つ乗り越えても次々とまたやってくる障害。その度に右往左往し、行き止まりとなれば戻って別の道を探さねばならないなど、まさに「リーダーシップの迷宮」を彷徨うことになる。挙句の果てには、晴れてトップマネジメントに近づいても、組織内で「危機といえば女性という連想」という思考が作動し、組織が危機に陥った時に女性がリーダーとして任命されやすくなるため、組織の失敗と共に自分自身もキャリアの階段を転げ落ちてしまうという「ガラスの壁」の餌食となりやすい。

 

このように、女性リーダーを取り巻く環境からくる強い風当たりは、女性リーダーもしくはリーダーになる前の女性のメンタリティやマインドセットに大きな影響を与える。そもそも、男性だったら経験することがないようなそんな困難や苦労を自ら買ってでもリーダーになりたいか?そんな困難を経験しながらリーダーになるなんて、それに伴って諦めなければならない多くの代償を考えると割に合わないではないか。そんな無理をするくらいならば、リーダーにならずに仕事とは別の場所で有意義な人生を楽しみたい。このように、外的要因による困難や障害が、女性自身が自信をなくし、自分の実力を過小評価し(インポスター症候群)、リーダーとしてのキャリアに消極的となったり諦めの境地となり、結局リーダーを目指さなくなってしまうという内的要因を助長させる。そして、そういった女性の消極性が、組織から見てリーダー候補として女性を選ぶ機会を減らし、女性に対してリーダーシップ教育を施すという機会をも奪ってしまう。これがますます、女性はリーダーに向かない、リーダーを指向しないといったような偏見やステレオタイプを強化してしまうという悪循環を形成している。この悪循環が継続するため、実社会において、女性取締役や女性管理職が増えていかないという現実につながっている。この悪循環を断ち切り、好循環を生み出すことが必要である。

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では、女性リーダーを取り巻く悪循環を断ち切り、好循環を生み出すにはどうすればよいのだろうか。まず、組織がやらなければならないのは、意識的もしくは無自覚的に発動している女性への偏見やステレオタイプを明るみにし、それを1つ1つ丁寧に取り除いていくことである。とりわけ無自覚的に組織のカルチャーや規則、働き方にそれらが染み付いている場合には、少なくとも組織の構成メンバーに「気づき」を与えることが重要である。社会一般や組織内に蔓延している偏見やステレオタイプに気づくことが、それを除去していくための最初のステップである。無自覚的に組織のカルチャー、規則、働き方などに影響を与えている偏見やステレオタイプに気づいたならば、それに起因して男女不公平・不平等を生み出していると思われる具体的なルールや施策を特定し、その改善を図るべきである。それは、採用から始まり、配属、勤務体系、勤務体系、業務遂行スタイル、昇進・昇格ルール、教育研修の対象や内容などのマネジメント施策や働き方から、オフィスのレイアウトや施設の詳細など、多岐にわたることであろう。しかし、1つ1つ確実に改善していくことが大切である。

 

次に、組織は、経営上位層、すなわち取締役レベル、トップマネジメントレベルの女性の数を増やしていくべきである。経営上位層の女性を増やすことで、その下位層の女性の数が増えるようなドライブをかけるのである。もちろん、これは卵が先か、ニワトリが先かの議論になりかねない。すなわち、組織の改革が進み、下位層の女性リーダーが育ち、数が増えていかなければ、経営上位層の女性の数など増やせないといった反論である。もちろんその理屈は一理あるが、上位からのトップダウンとして女性リーダーの数を増やしていくことの経営に対する効果も多く考えられるので、ボトムアップトップダウンの挟み撃ちで推進していくべきである。トップダウンだけでも、ボトムアップだけでも改革の勢いはつかず、失速してしまうからである。トップマネジメントが変わるということは、企業や組織全体が大きく変わろうとしているというシグナルにもなるのである。そのシグナルが、ボトムアップによる組織の改革を加速することにつながる。

 

組織内の環境要因のみならず、女性自身の内面に起因する障害を取り除くためのサポートも必要である。まず、女性がリーダーシップ教育を受けたりリーダーになるための経験をする機会が男性と比べて少ないという傾向を是正し、女性に対して積極的にリーダー教育を行うことが望ましい。女性に対するリーダー教育、リーダーに必要な経験、リーダーとしてのマインドセットを醸成し、女性自身がリーダーになるためのスキルと自信を高め、リーダーとしてのキャリアを指向するようにサポートすることが重要である。リーダーとしてのキャリアを志向する女性の数が増えることで、リーダー教育を受ける女性の数も増え、それに応じて組織内における女性リーダーに対する風当たりも弱くなるといったように、外部要因も改善され、外部要因の改善がさらにリーダー候補となりうる女性の自信や積極性を高めるという好循環が生まれることが望ましい。

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上記にも関連するが、女性が、自らの強みや特徴を如何なく発揮することができるようなリーダーシップスタイルを考慮し、提案していくことも望ましい。一般的に、リーダーのイメージが男性的である、あるいは、男性的なリーダーシップスタイルが最も効果的にチームや組織を引っ張ることができるという偏見やステレオタイプが社会や組織にあるために、女性が、自分自身の性格とはそぐわない男性的なリーダー行動を取ろうと無理をしてしまって燃え尽きてしまったり、その不自然さに異性や同性からの反発を受けることも考えられるからである。もちろん、男性的なリーダーシップスタイルや、女性的なリーダーシップスタイルも存在するであろうが、そのようなステレオタイプに縛られることなく、男女問わず自分自身の強みや特徴に最も適したリーダーシップスタイルを取ることが大事なのである。それを阻むような組織カルチャーや偏見、ステレオタイプを除去することも重要なのである。

文献

Galsanjigmed, E., & Sekiguchi, T. (2023). Challenges Women Experience in Leadership Careers: An Integrative Review. Merits, 3(2), 366-389.

https://doi.org/10.3390/merits3020021