幸田露伴の努力論より

船を出せば海上では風が自在に吹いている。その風が自分の行きたい方向に向って吹いているときは「順風」といい、そのプラス作用を喜び、行きたい方向から逆に吹き付けてくる場合は「逆風」といって、そのマイナス作用を嘆く。しかし、同じ南風でも、北行する人にとっては福で、南行する人にとっては福でないように、順風と思っている人が受けている風は、逆風と思っている人が受けている風とまったく同じとう場合がある。だから、船がよかったから順風になったのでも、船が悪かったから逆風になったのでもなく、順風か逆風かは巡り合わせの問題なのである。ただ、船を出そうとするとき、あらかじめ風を予測し、有利な風をつかまえる方策をたてて出航することは可能であろう。


俗世間でいうところの「福」とは、社会という海上で無形の風力によって容易に地位・権勢・富を得た場合のことを指している。

参考文献

渡部昇一「運が味方につく人つかない人」三笠書房