勢いに乗る

戦いには「勢い」というものがある。「勢い」とは、せきとめられた水がせきを切って流れ出すときにみせる、あの「勢い」である。このような「勢い」をつくり出し、それに乗じて戦うのが、戦上手の戦い方だ。
戦上手は、なによりもまず勢いに乗ることを重視し、一人一人の働きに過度の期待をかけない。「勢い」に乗って戦えば、兵士は坂を転がる丸太のように、思いがけない力を発揮し、全軍一丸となって闘うことができる(守屋 2004)。

せきとめられた水が激しい流れとなって岩をも押し流すのは、流れに勢いがあるからである。猛禽(もうきん)がねらった獲物を一撃のもとにうち砕くのは、一瞬の瞬発力を持っているからである。それと同じように、激しい勢いに乗じ、一瞬の瞬発力を発揮するのが戦上手の戦い方である。・・・組織に勢いがあれば、臆病な者まで勇敢になり、全軍一丸となって戦うことができる(守屋 2004)。

勢いというのは、項羽のようにつくり出すことができる。また、敵が与えてくれる場合もあるし、何かのはずみで自然に造成される場合もある。
「勢い」というのは調子の波といいなおしたほうがわかりやすいかもしれない。誰にでも、調子の波がある。調子の波が上向いているときは、何をやってもうまくいきそうなきがするし、また、現にうまくいく場合が多い。逆に、調子の波が下降しているときは、何をやってもうまくいかない。
この世の中を生きていくうえでも、調子の波をうまくつかむことが必要なのである(守屋 2004)。

水には3つの特性がある。
一定の形がなく、器なりに形をかえる柔軟性をもっている。
抵抗を避けて低い所、低い所へ流れていく特性をもっている。
使いようによっては、岩石をも打ち砕くエネルギーを秘めている。
水に一定の形がないように、戦いにも不変の態勢はありえない。敵の態勢に応じて変化してこそ、絶妙の用兵といえる(守屋 2004)。