水平分業

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半導体業界の水平分業を決定的にしたのは、何といっても1980年代に確立された「ファブレス半導体メーカー」と「ファンダリ」というビジネス・モデルであろう。当初、「ファブレス」のビジネス・モデルは資金調達が困難なベンチャー企業の選択する道であったが、現在のファブレス半導体ベンダの中にはザイリンクスやアルテラのような年間売り上げが10億ドルを超えるような企業が5社もあり(2000年の実績)、半導体業界のみならずエレクトロニクス業界全体にも大きな影響を与えるような存在になっている。一方、台湾のTSMCやUMCに代表されるファンダリ・ベンダの最新のプロセス技術は、業界をリードする最先端の水準を誇っている。半導体技術の微細化には巨額の設備投資が伴うが、2001年の半導体不況の影響でインテルを除く垂直統合型の大手の半導体メーカー(IDM:Integrated Device Manifucturer)が設備投資額を大幅に削減したのに対して、TSMCやUMCのファンダリの減額幅は小さく、総額でもインテルサムスンなどに次ぐ高い投資額を維持している。

1990年代になって初めて半導体業界に登場したのが、IP(Intellectual Property:設計資産)プロバイダという新しいビジネス・モデルだ。プロセッサを含む大規模な回路ブロックのコアや特定の設計技術のライセンス販売を行うIPプロバイダの中には、多くの携帯電話用LSIに使用されているMPUコアを提供している ARM社や、パソコンの内部構成に大きな影響を与える存在となったラムバス社などが含まれる。ますます複雑化、高集積化するシステムLSIの設計を短期間で完成させるためには、検証済みのIP ブロックの再利用が今後さらに重要になることは間違いない。 IPプロバイダは、デザイン・ハウスやファブレス半導体メーカーとは明らかに異なるビジネス・モデルだ。彼らの顧客は、半導体メーカーから、半導体ユーザ、ファンダリまでの広い範囲に及ぶ。このビジネス・モデルはデザイン・ハウスと同様に比較的小資本で開業可能であり、ビジネスのリスクは低いが、業界に大きな影響力を及ぼす存在になるポテンシャルを秘めている。先日、次世代のネットワーク・プロセッサを開発しているベンチャー企業を調査したところ、彼らの多くはファブレスではなく、IPプロバイダのビジネス・モデルを選択していることが確認された。

日本の半導体業界でも水平分業は進んでいるのであろうか?まず、残念なことに日本には世界的なICデザイン・ハウスやIPプロバイダが存在しない。また、日本にはUMC傘下の日本ファンダリという企業もあるが、世界的なファンダリ専業企業も存在しない。日本の幾つかの半導体メーカーは、0.35ミクロンの CMOSプロセスが全盛だった時代まで米国のファブレスベンチャー企業にとっての重要なファンダリとなっていた。しかし、主力製品が0.25ミクロン・プロセスを使用するようになって以降、米国のファブレス半導体企業はこぞって生産の委託先を台湾のファンダリに移行させてしまったようだ。世界最大のファブレス・メーカーであるザイリンクスの生産委託先はセイコーエプソンからUMCに、アルテラのファンダリ先はシャープからTSMCへとシフトしている。