コーポレートガバナンスの実証研究

取締役会の経営行動の監視・コントロール機能

企業の所有者・主権者が直接経営を行なうのではなく、経営陣に経営を委任するわけであるから、統治機構を通じて経営陣を監視しコントロールする必要がある
  • 過去の企業業績の成功が、より経営陣に依存的な取締役会の構成につながる(Daily & Johnson, 1997)
  • 企業は業績不振に陥ると外部取締役の数を増やす(Hermalin & Weisbach, 1988)
  • 企業業績の向上は、現CEOの権力を助長させ、取締役の選任への発言権が強まるため、経営陣に反対できる取締役会にならなくなる(モニタリング機能の低下)
  • 企業業績が低迷すると、取締役会の発言権が強まってくる
  • 通常の環境下では、取締役会は企業業績に直接的な影響を及ぼさないが、危機的状況などの特殊な状況になると、取締役会の重要性が高まってくる。
  • 外部取締役が占拠している取締役会は、CEOの解任決議には企業業績指標を重視する(Weisbach, 1988)。一方、内部取締役の多い取締役会は、外部から新しいCEOを連れてきたがらない(Boeker & Goodstein, 1993)。
  • 外部取締役の比率と、企業の社会貢献行動(social performance)とは正の相関がある(Johnson & Greenberg, 1999)。
  • 権力のあるCEOは自分と出身背景が似ている人物を取締役に任命する傾向があり、そうして構成された取締役会と、CEO報酬のレベルに関係がある(Westphal & Zajac, 1995)。
  • 外部取締役が多く、報酬委員会が設置されている企業ほど、経営者報酬が企業業績と連動している(Conyon & Peck, 1998)。
  • 頻繁に会議を行わず、戦略委員会を持たない取締役会は、結果によるコントロールを志向し、そのため、とりわけ設備投資面において経営者をリスク回避的にさせる(Beekun, Stedham & Young, 1998)。短期的なリスク回避行動は、企業の長期的な業績に影響を与える。
  • 非効率な統治機構と不十分なコントロールは、企業業績を低迷させ、その結果、組織も統治機構も再編される結末となる(Hoskisson & Turk, 1990)。長期的に見れば統治機構には自己調整プログラムが内包されているともとれる。
まとめ
  • 取締役会が独立している度合い(独立度が高いほど理論上は監視機能が高まる)と企業業績の関係は定かではない
  • 取締役会の構造が企業業績を左右するというよりも、企業業績が取締役会の構造に影響を与えているということを実証研究は支持する
  • 取締役会の構造は、通常の環境下よりも、危機的状況などの場合に重要性が高まる

取締役会の経営への支援機能*1

  • 取締役の多くの時間は、CEOへの助言に割かれている(Lorsh & MacIver, 1989)。
  • 企業は外部取締役から外部環境のトレンドに関する情報を仕入れている(Kesner & Johnson, 1990)。
  • 現もしくは全CEOが取締役会に留まり助言をする(Lorsh & MacIver, 1989)*2
  • CEOが関係会社の取締役を兼ねることはイノベーションの波及に寄与する
  • 取締役会が企業の戦略策定プロセスに関与する度合いが、企業業績と相関がある(Judge & Zeithaml, 1992)。取締役が重要な戦略的イシューをわきまえていることは、企業の財務的な業績指標と関連がある(Judge & Dobbins, 1998)。
  • 同規模の企業では取締役会の規模が大きいほど企業業績が良い(Dalton et al., 1999)。
  • CEOと外部取締役との特別な関係は、取締役会の監視機能を弱めるが、一方で取締役会の経営支援機能は強める(Westphal, 1999)*3
まとめ
  • 取締役会の経営支援機能は、コラボラティブモデル(協同モデル)とも言われる。
  • 実証研究は、取締役会の経営へのコラボが企業業績を高めることを支持する。
  • とりわけ企業が危機的状況に陥ったときに、取締役会の支援機能が威力を発揮すると思われる。

*1:アドバイザリーボードとの関連性?

*2:日本で言う取締役相談役?

*3:社会的関係が深ければお互いに助言しあう