AMJ論文に学ぶトップジャーナル掲載のための研究方法と論文執筆スキル(混合研究法編7)

本編では、AMJに掲載された混合研究法を用いた論文であるJia et al. (2024)を教材として、混合研究法を用いた研究をトップジャーナルに載せるための研究方法や論文執筆方法について解説している。今回は、Jia et al. (2024)の真髄である混合研究法のうち、質的調査の部分について解説する。

調査1の復習

なぜ、調査2で質的研究法を用いたのかの理解を深めるために、まず、最初の演繹的に仮説を導き出す箇所でどのような理論を用いたのかを振り返ってみよう。仮説の導出で依拠したのは職務設計理論である。前工程をAIが担当することで、従業員が遂行する職務の設計が変化し、職務の特徴が変化する。具体的には、ルール化され言語化されたルーチン業務の負荷が減り、複雑で非定型敵で認知的負荷の高い業務の割合が増える。よって、スキルの高い従業員は、複雑で難しい業務に自分のリソースを集中することができるので、そこで成果を高めようとして創造性が高まる。その結果、成果も高まる。一方、スキルが低い従業員は、難しい業務ばかりになることで、逆に自分の実力が発揮できなくなり、創造性や成果は高まらない。また、難しい業務ばかりになることに起因するプレッシャーや自分の業務が代替されるのではないかという恐れが高まることが予測されるが、スキルが高い従業員への影響は少ない。このような理論展開を経て仮説が設定されたのであった。

質的調査の動機、手続き、分析

この仮説を検証するために行ったのが調査1のフィールド実験であり、実験の性質上、内部妥当性が高い形で、仮説の因果関係が支持された。ただし、以前も解説したとおり、演繹的に導き出した因果関係は、実際に現場を観察しているわけではないので、なぜ前工程をAIが行うと従業員の創造性が高まり成果も高まるのかについて、見落としている視点があるかもしれない。よって、半構造化インタビュー調査による質的研究法によって、実際には何が起こっていたのかのプロセスをつぶさに見てみることによって、理論をより洗練化させたり、あらたな気づきや発見を得ようというのが、調査2の趣旨であった。論文中でもこのような趣旨のことを調査2の冒頭で、調査2の動機として記載している。

 

インタビューの対象となったのは、調査1のフィールド実験に参加した、前工程をAIが担当した群、そうでない群、高スキルの従業員群、低スキルの従業員群の被験者からそれぞれ群ごとにランダムに選んだ28人である。計算すればそれぞれの群ごとに7人ずつになる。方法は、半構造化インタビューで、ある程度の質問内容を用意しておくが(オンライン補足資料に掲載されている)、それに拘らずインタビュイーからの自由な回答も導き出そうとする方法としての定番であり、まだ十分に理解が進んでいない現象について意外な発見を得るうえで有効な方法である。インタビューデータの分析方法は、グラウンデッド・セオリーを用いた帰納的な方法であると述べ、その内容を簡潔に記載している。

 

混合研究法の論文という性質上、本来であれば多くの情報量になりかねない質的調査の説明部分をさらりと記載している。ただし、グラウンデッド・セオリー法やいわゆるGioiaメソッドで使われる定番のデータ構造図を掲載している。方法論の説明やデータ分析の部分は、質的研究論文であれば、質的研究を専門とする査読者からいろいろとツッコミが入りそうな箇所である。例えば、調査1の結果をさらに掘り下げるのが目的なのに、グラウンデッド・セオリー法による帰納的アプローチが本当に適しているのかとか。しかし、今回は混合研究法で、かつメインがフィールド実験でこちらの半構造化インタビューは補足的な役割を示しているので、調査2についてはそこまで厳密的かつ批判的に見られていなかったのだろうと推測される。

質的調査で得られた発見

最初の発見は、前半の理論部分の妥当性を確認するような内容で、AIがテレマーケティングの前工程を代替しておかげで、従業員は電話に出なかったり、すぐに切られたりといった気が滅入るような作業をする必要がなくなり、真に商品に関心を持っている顧客のみを相手にするようになったこと、高スキル従業員はそれを自分のスキルアップのためにも望ましいことだと思い、低スキル従業員は逆に仕事が難しくなって効率が落ちたと考えたことである。

 

2つ目の発見は、後工程で相手する顧客は商品に関心があって色々と質問をしてきたりするので、高スキルの従業員にとって、それに答えられるようなテンプレートを工夫して生み出すという機会が増えたことである。つまり、高スキルの従業員にとって、AIに前工程をやってもらうと、真剣な顧客とのやり取りの頻度が増え、よって顧客からのフィードバックが増え、その場に応じて柔軟に対応しつつ、対応の仕方のテンプレートを改良する機会も増えたということである。これが創造性と成果につながったとかんがえられる。

 

3つ目の発見は、AIに前工程をやってもらうことで、高スキルの従業員はよりポジティブな感情を経験し、低スキルの従業員はよりネガティブな感情を経験したことである。これが創造性や成果と関連していることは容易に想像できる。4つ目の発見は、高スキルの従業員は、AIに前工程をやってもらったことで成果が向上したと答え、AI化をもっと進めるべきだと答えたのに対し、低スキルの従業員は、AIの導入度合いは今のままで良いと答えた。

 

最初に演繹的に導いた理論と比較してみると、質的調査を実施したことによって、本研究テーマであるAIによる前工程の代替の効果に関する理論的な理解にどこが新たに加わったかが分かる。それは大きく2つある。1つ目は、顧客の役割である。真剣な顧客とのやり取り、そのような顧客からの質問やフィードバックが、新たなテンプレートを創造し、その良し悪しを確認する機会を見出す助けになったこと、顧客への柔軟な対応が新たなテンプレートを創造する必要性の認識に繋がったこと、そして、その場に応じての対応が、試行錯誤しながら新たなテンプレートを創造することにつながったという発見が新たに加わった。2つ目は、感情やムードの役割である。AIによる前工程の代替が、高スキルの従業員のポジティブな感情を生み出し、ムードを高め、士気や情熱を高め、それが創造性の向上につながったということである。

 

AIの活用が従業員の創造性にどのような影響を与えるかの理解についての、顧客の役割と感情の役割といったメカニズムの発見は、既存の理論のみから演繹的に導くのは難しく、質的な情報を得たからこそわかったことだと言って良いだろう。

文献(教材)

Jia, N., Luo, X., Fang, Z., & Liao, C. (2024). When and how artificial intelligence augments employee creativity. Academy of Management Journal, 67(1), 5-32.